日本の歯科業界はもう決定的にダメかもしれない

(Page1からの続き)

西洋がバブルであったとすれば、その一方の日本はどうなのか?少々刺激的なタイトルをつけてしまったのかもしれない。
しかしこの感想を持ったのは私ばかりではなかったようだ。会場内で出会った日本人の知人も同じような感慨をいだいていたし、帰国してから業界人にこの考えを打ち明けると、ほとんど誰もが「いや実は私も・・」と同感であることを示してくれているのである。

それは「もう日本の歯科器材業界は海外に徹底的に出遅れたし、今後も追いつくことはないだろう」という多分に悲観的な感想である。

なにわdeフェスタの模様。。たとえば、参加したあるディーラーの営業マンも書いていたが「ブースで日本人だと言えば、それだけで相手にしてもらえなかった」という証言。
たとえば、4年前には会場で闊歩していた日本人バイヤーの数が極端に少なかったということ。
たとえば、日本メーカーの多くが国内未発表の器材を数多く展示説明していたこと。

今回、ケルンに発つ前、大阪で開催された「なにわdeフェスタ」という比較的大規模な国内展示会に顔を出したのだが、今回のIDSと比較するとあまりの空気の違いに別の惑星に来たかのような錯覚に陥った。規模の大きさは仕方ないとしても、展示する側、説明を求める側の熱気がまるで違う。かたや新しい技術や進歩の提案があちことで繰り広げられ、臨床家やバイヤーたちとその意味について、将来について喧々囂々の議論が当たり前の世界。かたや認可を得てカタログまで完成しており、もはや誰もが知っていて当たり前の器具がただ並べてあるだけの世界。どうしてこうなってしまったのだろう。

規制強化の果てに

なにやら異様なタイムマシンのようなCADCAM装置らしきオブジェ。他の惑星か。ちなみに右端は私。ある日本のバイヤーがぼやく。「良い製品はたくさんあるんだよ。長くやっているからわかるんだ。これは日本の先生方にウケるってね。メーカーも乗り気でさ。ただね、実際にこれを輸入することの大変さを考えるとね・・・」

いつのまにか日本は規制緩和を唱えながら、規制強化の実態が着実に進行させていく社会になっていた。そしてそれを誰も疑問に思わなくなっている。

イレッサやタミフルの薬害騒動を見るとたしかに何もかも野放しで良いはずがない。
しかしだからといって、歯科の小さな器具を輸入するのに数百万の経費をかけ、新規製品となれば海外での認可があっても、それとは別に国内の大学での治験を必要とし、さらに海外メーカーから詳細な成分表を提出させ、さいごは財団法人職員が2名ばかり出張してその海外工場を実地検分し、あげくに工場長の健康診断書まで持って帰る世界が正常といえるのだろうか。

それから何年もの審議を経て、ようやく晴れて輸入が認可された頃には、本国では後継品が開発販売されており、新製品としてのブームは過ぎ去っていたりする。あるいは日本を含むライバルメーカーがより安い製品を投入していたりする。

そんな実態を知れば知るほど、バイヤーもやる気をなくし、海外メーカーも「とても日本市場は手に負えない」ってことで同じアジアでも中国やタイ、インドに目が向くのは至極当然である。

誰のための規制だったのか

HIVやHCVの薬害が報じられ、オウムのサリン事件などの反省を元に、日本の薬事行政はさらに規制強化に向かったとされる。マスコミの論調も「いったい国は何をしていたのか」という口調であった。反省あるところ対策あるのみである。間違った判断だとばかりはいえない。

しかしである。私は業界に関与して20年あまり、歯科の器具の不良が原因で大勢の日本人が死んだり傷ついた事件を知らない。
あるいは修理に不備があり、メインテナンスしていなかったなめに患者さんが大きなダメージを受けたという話も聞いたことがない。こちらは北ゲート。夕暮れ小雨のケルンは寒かった。
もちろんだから野放しにしろ、というわけではない。節度ある規制や指導は医療の一環である以上、歯科においても当然必要だからである。

薬事法が改正され、医療機器にまで薬と同じような規制が適用されると聞いたとき、これは国民を守るためには必要な規制である、といういわゆる「錦の御旗」があったろうか?医科においては確かにそれは存在した。しかし、こと歯科においては、悲惨な事件を反省してこのような強化がなされたわけではなかったはずだ。

「我々は監督官庁からの許認可で仕事をしている以上、この荒波に何とかして対応しなければ」というのが当時の業界の空気であったと思う。

でももしかしたらそこに、少しだけ期待があったことも、わたしたちは白状しなければならない。

私たちが目指したもの

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